エンドロールをご一緒に

 カーテンの隙間から差し込む朝の光で目を覚ます。
 どっしりとした丸太の梁が渡っている天井をしばらく眺め、それから隣に視線を移した。
 私の横で大きなキルトの上掛けにくるまり、安らかな寝息をたてているのは、愛しい妻だ。

 もう何十年もの歳月を、この女性とともに重ねてきた。
 けれど、妻として迎えることができたのは、ほんの数年前だった。
 自分の副官として留め置きたいという、私の身勝手なわがまま故に、彼女と正式な夫婦となったのは、軍を退役してからだった。
 『私が道を踏み外したらその手で私を撃ち殺せ』
 そんな酷な命令を下し、幾度となく命の危険にさらし、泥の河を渡らせてきた私のことを、彼女は護り、支え、そして愛してくれた。

 日の出とともに目覚め、庭の鶏が産んだ卵と、毎朝届く新鮮な牛乳、妻が心をこめて焼いてくれたパンの朝食を楽しみ、食後は挽きたての豆でいれたコーヒーをゆっくりと味わう。
 天気がよければ草花の手入れをし、雨が降れば心地よく暖炉の燃える部屋で読書をし、たまに妻と言葉を交わす。
 嘘のように穏やかな暮らしが、今の私にはあった。

 私が寝台に身体を横たえたまま、ふたりの来し方ゆくすえについて思いをめぐらせていると、妻がそっと私の手を握った。
「起きていたのかい、リザ」
「ええ。あなたも、早いですね」
 リザが微笑む。ふわりとした、柔らかい笑み。
 いつも、いつまでも、彼女は美しい。
「近ごろは本当に夜が短くなった」
「そろそろ林檎の受粉をしてやらなければいけませんね」
「そうだな」
 私は妻の手を握り返した。
 手が塞がると危険だといって、昔はこうして手をつなぐことなどなかった。
 護衛の任を果たすため、彼女はいつも数歩後ろに控え、横に並んで歩くことすらなかった。
 でも、今は。そして、これからは。
「リザ」
「なんでしょう」
「これからも宜しく頼む」
 エンドロールが流れるその日まで。
「こちらこそ」
 手をつないで、歩いていこう。