ケイン・フュリー曹長の報告

 ……はい、自分はマスタング大佐のお声がかりで、セントラル勤務にしていただきました。士官学校出身ではない自分としては、異例の人事異動ということで、故郷の両親に知らせたら、とても喜んでくれました。はいっ、もちろん、アメストリス国軍、そして大総統には心より忠誠を誓っております。わかりました。自分の見たままを報告いたします。
 ホークアイ中尉ですか?尊敬している上官の一人です。あの方の射撃の腕前は東方司令部時代から有名でした。……そうなんですか、イシュヴァールの戦役にも出ていらしたんですね。
 え?大佐と?……どういった噂でしょうか。え?……まさか、そんなはずはありません。なぜって……大佐は……その、街への「視察」のかたわらで沢山の女性と……その……デートをなさっていらっしゃるようですし。自分から見て、中尉は大佐に大変尽くしていらっしゃいますが、職掌上以上のことがあるようには見受けられません。
 アイ、サー!失礼いたします。

 極秘に、と念を押された呼び出しを終えて、フュリーはその部屋をあとにした。フュリーは最初に誓った通りに「見たまま」を報告したのだった。
 しかし、自分が担当している、無線の回線調整をしながら毎日毎日聞いている、とある恋人同士のやり取りについては、何も口外しなかった。
「エリザベス、聞こえるか。どうぞ」
「聞こえています、どうぞ」
「今夜、あいているか。どうぞ」
「今夜は都合がつきません。どうぞ」
「最近つれないじゃないか。どうぞ」
「任務がありますので。どうぞ」
「それもそうだな。どうぞ」
「あなたは命令を下されたご本人ではありませんか。どうぞ」
「それでも君に会いたいときは会いたいんだ。どうぞ」
「……」
「エリザベス?聞こえているか。どうぞ」
「イエス、サー」
「会えないならせめて、『好きだ』と言いたまえ。どうぞ」
「……拒否します。どうぞ」
「承諾するまで回線は保持しておく。切断したら次の査定に響くと覚悟したまえ。どうぞ」
「公私混同も甚だしいと思います。どうぞ」
「そう恥ずかしがるな。私以外には聞こえていない。どうぞ」
「……好きです」
「私は君が思う以上に、だ。どうぞ」
 そこまで聞いて、フュリー曹長はヘッドホンを耳から外した。
 もしも上層部に「見たまま聞いたままを報告しろ」と言われていたのであれば、これを報告せねばならないところだったが、「見たまま」を報告したのであって、自分は何も命令には反していない。
 フュリーは鼻歌さえ歌いながら、今日も尊敬する上官からの命令のままに、次から次へと無線のチャンネルを調整するのだった。