基本的にロイアイはラブいんです。
「明けましておめでとうございます」
リザから挨拶をされ、ロイは「うん、おめでとう」と答えた。
昨夜に東方司令部の面々で催された、カウントダウンパーティーという名の乱痴気騒ぎからは想像もできないほど、リザは清々しい顔をしている。
いつもに増して凛としたオーラを放っている理由は、リザの装いにもあった。
ロイが和服姿の彼女を見るのは初めてではなかったが、すっきりした中にも華やぎがあって、思わず見とれてしまういでたちだ。
それなのに、二日酔いの頭は、すこぶる働きが鈍い。だからロイは、こんなことを言ってしまった。
「ほう……なんとかにも衣装だな」
しまった、と思っても後の祭りだ。
「私が馬子だとおっしゃりたいので?」
「君ね、新年早々そうとんがるものではないよ」
こうなってしまっては、もう完全に手遅れだった。リザはキッと眉を上げて言った。
「とんがらせているのは誰ですか?!」
――それから約十分後。
ロイとリザは羽子板を手に、向き合って立っていた。
なぜこうなったのかは、どうでもいいので詳細は省くが、とにかく『負けたほうが相手の言うことをなんでも聞く』という条件で、決死の羽根つきバトルが開幕したのだった。
リザをすっかり怒らせてしまったことは残念な事実だったが、今ロイの頭にあるのはそのことではなかった。
(私が勝ったら、リザちゃんとちゅう……ちゅう!!!)
「ふははははは負ける気がせん!」
ロイは全身に力がみなぎるような気がした。
さあ、どこからでもかかってきたまえ、と告げてリザを見ると、なんだかリザの様子がおかしい。
(ゴゴゴゴゴゴゴゴ……)
おなじみのあの擬音と共にリザの右手がユラリと動く。
イシュヴァールの英雄を甘く見てはいけないが、鷹の眼――怒りにより二十五パーセントのパワーアップ済み――は只者ではなかった。
「はぁっ!」
「うりゃあ!」
ビシ! バシ! ゴッ! ドカッ! バキッ!
超次元スーパー羽根つきとも言うべき戦いは苛烈を極めた。
(私が勝ったら、リザちゃんとちゅう……ちゅう!!!)
(いや、ちゅうだけじゃなくて……あの帯を引っ張って、くるくるくるあ~れ~お代官さま~プレイとかも!)
願望から妄想へとクラスチェンジしてゆく頭の中とは裏腹に、ロイの体力は激しいラリーによりどんどん消耗していった――。
「……明け、あ、明けましてぶふーっ、おめでとうござ……!」
会う人会う人に同じ反応をされ、ロイはもはや何も言う気力がなくなってしまっていた。
あえなく敗北したロイの顔には、リザのセンスが炸裂した落書きが施されていた。結局、ロイは日が暮れるまでその顔のままでいさせられたのだった。
まったく、うすうすこうなるような気はしていたものの、年の始めからさんざんな目にあってしまった。
顔を洗って執務室へ戻ると、リザは自分の席についていた。
「中尉」
「はい」
呼びかけると、リザはすぐにロイのほうを見た。ロイは少し改まった口調で詫びた。
「すまなかった」
「何のことでしょう」
「馬子にも衣装、なんてことを言って、悪かった」
「……もういいです」
「いや。そんなこと思ってもいなかったのに言ってしまって、後悔してる。今からでも取り消せるか?」
そう聞くと、リザはちょっと微笑んだ。笑うと、あでやかさが増す。ロイは思わず彼女に見とれながら、こう言っていた。
「ありがとう」
そしてリザに近づき、そっと顎に手をかけた。
ゆっくりと二人はキスを交わした。
「――なぜお礼を?」
「さあ……なんとなくだ。しいて言うなら、私のために綺麗な格好をしてくれて、ありがとう、ということかな」
ロイの言葉に、さっと頬を赤らめたリザが可愛らしくて、ロイはもう一度キスせずにはいられなかった。
二人の胸にあるのは、きっと同じ言葉だったから、今さら口に出す必要はないと思った。
――今年も、よろしくお願いします。
終